きみはそんな言葉で女を口説く気か。

夕方、新天町の喫茶店でぼんやりコーヒーを飲んでいたら近くの席に男女の二人連れが座りました。座席の関係で女の人の顔は見えないのですが、男の人は大学生の年頃で、ふわふわした頭の、色の白い、持て余すような長身の青年。お顔立ちは息を呑むほどの綺麗さではありませんが、こう「本人は悪振ろうと頑張ってるのに全然成功してなくて、その妙な力の入り方が可愛い」と思う女の人には好かれるんだろうなぁ、という男の子じみた感じ。暫く彼らは他愛も無い雑談をしていましたが、どうもホストのアルバイトをしているらしい男の人が一生懸命連れの女の人を口説いているのだということがわかってきました。「ホストの口説きが真近で見られる!」と聞き耳を立てる私。

「俺、永久脱毛に通ってて、最近全部終わったばっかりなんだよ」
「ふぅん」
「せっかくしたんだから誰かに見て欲しいなぁ、と思ってるんだよね」

何だそれ。きみはそんな言葉で女を口説く気か?! なんというか、情緒というか、色気というか、そういうものが微塵も無いじゃないか。よりによって「永久脱毛」って。通常ならば「誰かに」というところに難癖をつけて「誰でもいいのか」と罵るところですが、そんな気も起こりません。「永久脱毛」って、男の人の色気とか性欲とかと一番遠いところにある単語な気がするなぁ。何かしら事情があって施術するのは構わない。けど、それを正面切って口には出すな。私が彼の雇い主なら即刻解雇するところです。まったく、まったく。あてが外れてとても悔しい。
顔だけ妙に綺麗だけど言語感覚が備わっていない男と、容姿はそう美しくないが言葉の使い方は上手い男が居たら、私は迷わず後者を選びます。だって、言葉の上手い人の方が色気があるもん。そして、その言葉を載せる声が好みに合っていればもう言うことはありません。(高めの大声で、早口で朗々と喋る人は苦手です。なぜなら私の頭がついていかないから)

で、日夜「良い口説き文句」を考える日々なのですが、誰にでも通用する完璧な口説き文句ってあり得ませんね。言う状況とか、言うまでの人間関係とか様々にあるわけだし。同じことを若い人が言っても馬鹿みたいだけど、四十代の人が言ったら格好良い、とかもあるだろうし。とりあえず今まで聞いた男の人の台詞で一番格好良かったのは、去年の冬、学校の屋上でぼんやり煙草を吸っていた時にお会いした(全然存じ上げない)先生が口にした「金星が綺麗ですね」というの。でもこれも、二十代の人が言っても全然効果がないばかりか「だから何?」となりかねない(というかきっとなる)台詞だなぁ。しかもそもそも口説き文句ですらないし。難しいです。そして、本当に効果のあった口説き文句は誰も正確に明かしてくれないので謎は深まっていくばかりです。

そういうことなので「これでどうだ」というような口説き文句を考え出した方は私にこっそり教えてくださるととても助かります。なぜかというと今日の日記のタイトルは「良い口説き方・悪い口説き方」にしようと思っていたのに「良い口説き方」が全然思いつかなかったからです。ふぅ。