天守物語。

泉鏡花の戯曲の中でもとりわけ有名な作品です。ちくま文庫の『泉鏡花集成』7に入っています。

主な登場人物は白鷺城天守夫人:富姫(27、8歳に見える) 猪苗代亀ヶ城天守夫人:亀姫(20歳くらいに見える) 姫川図書之助(若い鷹匠)

白鷺城の天守では主人富姫の妹分、亀姫の猪苗代より参るのを待ち侘びている。富姫は夜叉ヶ池の白雪姫に掛け合って亀姫の道中が安全であるよう、白鷺城の播磨守一行の鷹狩を降雨により中止させる。
やがて亀姫が白鷺城天守に到着する。亀姫の手土産は亀ヶ城主武田衛門之介の生首である。富姫は亀姫の土産にと白鷺城播磨守の家宝である先祖伝来の鎧を手に入れているが、美男の生首と比べては見劣りがする、と引込める。
と、眼下に一羽の美しい白鷹が見える。富姫はそれを攫い、亀姫の手土産として持たせる。その白鷹は播磨守の寵愛する鷹であった。
夜更けて、姫路城天守に若い男が上ってくる。鷹匠の姫川図書之介である。彼は殿様寵愛の鷹を失った責めを負い、人間の出入りが禁じられている天守までやって来たのだった。富姫は図書之介の美しさ、勇敢さに感嘆し、天守へ参った証拠にと播磨守家宝の鎧を与え、二度と来てはならぬと約束をして彼を帰す。
しかし、図書之介は「家宝の鎧を盗んだ不忠者」と謗られ襲われる。彼は天守に逃げ帰り、富姫に加護を求める。彼に恋をした富姫は図書之介を守って播磨守の家臣に応戦するがその最中に守り神である獅子頭を傷付けられ視力を失う。味方も無く死を覚悟する二人のところへ工人の桃六が現れ鑿を振るって獅子頭の目を開かせる。二人の視力は戻り、人間の弓や槍の音を尻目に抱き合う。


というお話です。纏めるとあんまり面白くないようですが、本文を読むとなかなか素敵です。夜叉ヶ池のお雪様はこのお話にも登場しているのですね。
泉鏡花の作品で、女の人は幸せになっている話というのは殆ど無いような気がします。人間の女の人を幸せにする話は嘘臭くて書けなかったから、異界の女を幸せにしてあげているのかなぁ、と思ったりします。『夜叉ヶ池』でも百合さんは酷い目にあっていたけど(でも死んでからは幸せそうだった)白雪姫は恋が適うわけだし。