悪い男に引っかからないようにね。

って、17、8の少女に言われました。「あなたたちもね♪」と返事をしておきました。

授業でしばらくずっと源氏物語をしているのですが、このあいだ継母の藤壺と不義密通事件を起こしたばかりの光源氏(若紫巻)が、今度は正妻の出産に立ち会っていたら愛人・六条御息所が妻に生霊として取り付いたのを目撃してしまう、という危うい場面。

生霊になった六条御息所が「あなたに嫌がらせをしようと思って奥様に取り付いているわけではないのです。あまり悩みが深いと魂は本当に体からあくがれ出てしまうのですね」と葵上の体を借りて話しかける。光源氏は拙いことになった、と焦り、何とかその場を取り繕おうと(だって、何と言っても今居るのは妻の実家。妻の両親も簾を隔てたくらいの近くに居るのですから)「そんなこと言われてもなんだかさっぱりわかりません」と答えます。そうすると生霊はいっそう御息所としか思えない仕草を繰り返す。なかなかぞっとする場面です。

「何で光源氏は『確かにのたまへ』(はっきり名前を仰ってください)なんて言うの? はっきり答えられてしまったら言い逃れできなくなるじゃない」
「でも『名を名乗れ』って言うことで周りの人に『光源氏はあの生霊が誰だかわからないらしい、光源氏の醜聞とは関係のない物の怪なのかもしれない』ってアピールできるじゃない?」
「でも六条御息所光源氏の愛人だってみんな知ってるんだよね?」
「そうよ。みんな知ってて、でも知らないことになってるから、誰も面と向かって問い質せないの」
「『人々近う参るもかははらいたく』ってどういうこと? 何でそんなふうに思うの?」
「だって、自分の妻と愛人がごちゃごちゃ揉めてるとこなんか、みっともなくて誰にも見せたくないじゃない。ましてそれが妻の実家の人間なのよ。居たたまれなくもなるというものでしょう」

まるでお昼のドラマの感想大会のようだわ。
お嬢さんたちは「1000年前の女の人に共感して『光源氏酷い』って思えるのって凄いよね。紫式部って妄想の天才だね」と仰っておいででした。

古典を教える冥利に尽きると思いました。えへへ☆
まぁ、私の能力じゃなくて、作品の凄さが総てなんですがね。
……あとはお嬢さん方の興味の方向。


私は『女子高生と訳す源氏物語』に取り組む約束をしましたよ。どれだけ掛かるんだ。いったい。女子高生好きで、高校生程度の古典の素養、またはお昼のドラマ的センス、もしくは物書きの素養のある方は是非ご一緒に。