夢見る童話。

私、結構童話好きなんです。それも現代の作品じゃなく、古典や民話を加工したもので、加工の巧くいっているものなんかは大層好きです。あまり教訓のない、ほのぼのとした(あまり事件の起こらない)お話が好きです。
私が今まで見聞きした中で一番素敵だと思う童話は、教育テレビの「こどもにんぎょう劇場」(対象年齢:小学校一年生)で見た『神様になりそこねたサンダル』というマレーシアの昔話です。小さなお子様をお持ちのお父様、お母様には是非。このお話を知らずに大きくなったお兄さんお姉さんにも是非、と言いたいお話です。


ここは、南の国の王様の寝室。大きな天蓋つきのベッドや、綺麗に織られた絨毯、どっしりとした木の椅子には鮮やかな色の豪華なガウンが引き掛けられています。
王様はもうずっと留守です。遠い国に戦争をしに行っているのです。だから王様の寝室用のガウンとお揃いの布で織られた平べったいサンダルたちは暇を持て余すばかりです。このサンダルは夫婦なのです。することがないので一日中、お喋りをしたり、日向ぼっこをしたり、うたた寝をしたりして過ごしています。そして一日の終わりには夫婦揃って「今日も一日楽しく愉快に過ごせました。神様ありがとうございます」と言うのが常でした。

王様の留守が長くなり、お城はだんだんと汚れていきました。そしてとうとう、寝室にもねずみが入ってくるようになったのです。ネズミたちは王様のガウンを囓り、椅子を囓りベッドや絨毯を囓りました。そしてサンダルの夫婦に気づくと「しめしめ」とばかりに近づいてきたのです。サンダルの夫婦は慌てました。慌てて慌てて二人揃って思わず「神様、お願いです。私たちをねずみに変えてください!」と叫んだのです。すると、驚いたことにサンダルの夫婦は揃って二匹のねずみに変わっていました。サンダルの夫婦を囓ろうとしていたねずみは不思議そうな顔をしながら離れていきました。

サンダルの夫婦はねずみになってからも相変わらずお喋りをしたり、日向ぼっこをしたり、うたた寝をしたりして過ごしていました。そしてやはり一日の終わりには夫婦揃って「今日も一日楽しく愉快に過ごせました。神様ありがとう」と言うのでした。
ある日、サンダルねずみ夫婦が日向ぼっこをしていると猫が現れました。猫は「しめしめ」とばかりサンダルねずみ夫婦を追いかけました。サンダルねずみ夫婦は慌てました。慌てて慌てて二人揃って思わず「神様、お願いです。私たちを猫に変えてください!」と叫びました。するとサンダルねずみ夫婦は揃ってに二匹の猫に変わっていたのです。サンダルねずみ夫婦を追いかけていた猫は不思議そうな顔をしながら離れていきました。

サンダルの夫婦は猫になってからも相変わらずお喋りをしたり、日向ぼっこをしたり、うたた寝をしたりして過ごしていました。そしてやはり一日の終わりには夫婦揃って「今日も一日楽しく愉快に過ごせました。神様ありがとう」と言うのでした。
ある日、サンダル猫夫婦が日向ぼっこをしていると犬が現れました。犬は「しめしめ」とばかりサンダル猫夫婦を追いかけました。サンダル猫夫婦は慌てました。慌てて慌てて二人揃って思わず「神様、お願いです。私たちを犬に変えてください!」と叫びました。するとサンダル猫夫婦は二人揃って二匹の犬に変わっていたのです。サンダル猫夫婦を追いかけていた犬は不思議そうな顔をしながら離れていきました。

サンダルの夫婦は犬になってからも相変わらずわらずお喋りをしたり、日向ぼっこをしたり、うたた寝をしたりして過ごしていました。そしてやはり一日の終わりには夫婦揃って「今日も一日楽しく愉快に過ごせました。神様ありがとう」と言うのでした。
ある日、サンダル犬夫婦が食べ物を探して歩いていると人間が現れました。人間はサンダル犬夫婦を人間の食べ物をねらう泥棒だと思って追い払おうと棒を持って追いかけてきました。サンダル犬夫婦は慌てました。慌てて慌ててサンダルの旦那さんは「神様お願いです、私たちを人間に変えてください!」と叫びました。するとサンダルのおかみさんが「神様、今のは取り消しです!!」と叫びました。おかみさんは旦那さんに言いました。「あんた、人間てのはいろんな人間が居るんだよ。どんな人間に変えてください、ってちゃんと言わなきゃ駄目じゃないか」旦那さんは少し考えて「じゃあ、王様にでもして貰うか」と聞きました。おかみさんは素早く首を振りました。「駄目よ、王様なんて。戦争に行かなきゃならないし、戦争になんか行ったら死んじゃうかも知れないじゃないの」ならどうするんだ、と旦那さんが早口で尋ねるとおかみさんはさも良いことを思いついた、と言う顔で言いました。「そうだ。神様にしてください、って頼むのよ」旦那さんもにっこりして、それはいい、と頷きました。そこで二人は声を揃えて言いました。
「神様、お願いです。私たちを神様に変えてください」

しばらくしてサンダルの夫婦が目を開けると、そこは王様の寝室でした。窓の外にはもう月が照っています。二人は元のサンダルに戻っていたのです。二人は何だかとても楽しい気分になって大声で笑いました。そして「今日も一日楽しく愉快に過ごせました。神様ありがとうございます」とお祈りをしてから眠ることにしました。



というお話です。さすがマレーシア。北の国だったら絶対こういうお話は生まれなかったんじゃないかと思いました。